光畑:こんにちは。西井さんと私はとても長いおつきあいをしていただいていて、お産サポート業界の先輩なんですよ。もうどのくらいになるんでしょう。10年以上になりますよね。
西井:そうですね。
産院の情報がほとんどなくって、産院情報誌を作り始めた頃からのお付き合いですね。
1年に1度発行していて、ちょうど2号目ぐらいの時だったと思いますのでもうかれこれ15年くらいになりますか。
光畑:でも、よく産院の情報を作ろうという取り組みを始めましたね。その当時はネットもないですし、お産をする場所を選ぶといっても産院の情報がほとんどなくて、それこそ近所の人の口コミだけの時代。最初は、横浜近辺の情報でしたね?
西井:今も横浜に住んでいるのですが、やはり最初は近辺で、だんだんと紹介する範囲を広げていきました。
光畑:私は、つくばの子育て系の情報誌づくりにも関わっていて、創刊のとき編集長にと声をかけられたのですが、お産情報をやっていいなら、と引き受けたんですよ。よく考えれば、デリケートで難しい取組みを言い出し、いきなり地雷を踏んだなあ、と、思います。
その頃の子連れ情報誌はお出かけ情報がほとんどで、産院情報を紹介する所はなくって、どう取材していいのかなど見本がない中ではなかなか大変でした。
そんな時、西井さんに相談したんですよね。
それにしても、15年以上続けられることって大変ではないですか?
西井:とりあえず、続けてきました!(笑)
お産をする人が「自分がお産をする。それをサポートしてもらう」という気持ちで出産に臨んでほしいなと思って…。
光畑:当時は、一般人の視点でお産する場所を紹介する、ということがなかったので、良かれと思って書いた記事にクレームが来たり…。待合室の様子とか待ち時間とか掲載したら「こんな情報は困る!」とか言われたりしましたよね。その当時はお産する場所もまだまだ多かったし…。今のような産院不足という危機的な状況になり、アプローチもかわってきたのではないですか。今回の「わたしのお産サポートノート」では、そのあたりはどう意識されていますか。
西井:そうなんです。10年前は言われていなかったこともたくさん出てきて…。社会ががらりと変わりましたね。
今回、改訂版を出すにあたり、何を盛り込めばよいのか、いろいろ考えました。医療者の方の声もたくさん取り入れました。「自己管理することは大切!」ということも発信していけたらと思って、お任せしないお産についての視点を充実させています。
頼りきっていると、医療者側もたいへんになりますよね。
光畑:今、自然なお産でさえもファッションになっている感じがしますね。病院に行って、「自然なお産、ひとつくださ〜い!」と願えば自然なお産が手に入る、という感覚があるように思えます。
西井:お産は自分から出発して進めていくものだと思うのです。自分を見つめ直して、そして気付きを得て、様々な人のサポートを受けていくような…。
今回は、幕内秀夫先生の食のアドバイスも取り入れました。また、鍼灸師の小井土善彦先生、辻内敬子先生による、東洋医学からみた妊娠・出産の考え方、つぼ療法やマッサージでの快適なマタニティライフなども掲載しています。
そして、出産ジャーナリストの河合蘭さんに、お産を取り巻く環境が10年前とどう違うか?を語ってもらいました。
最終的に、自分がどうあるかが問われているんだ、「自分をしっかり持っていれば、何も怖くないよ!」というメッセージも込めています。
光畑:バックボーンとなるプロの監修もすごいですよね。それと表紙もとっても素敵です。装丁の向井一貞さんは、モーハウスともつながりがあるんですよ。
実は、モーブラのロゴやショップの印刷物もお願いしてます。
西井:自然なお産に理解のある方だと、話が早いですね。
「出産は、花が開くイメージ」 それをデザインにしたかったんです。
男性なのに、感覚が一緒であ、1回の打ち合わせですっとこのすてきなデザインを上げて頂きました。
光畑:ノートというタイトル通り、お産の情報や育児書だけではなく、自分のお産までの気持ちや体調等を書き込む形になっていて、世界にたった一冊の自分だけの本が出来上がるんですよね。これは出産する母親にとっても大切な一冊になりますが、きっと生まれた子が、大きくなって手にした時にも、嬉しくなりますね。
西井:ノートを見ることで、どんどん昔に遡れますね。何かにつまずいた時に見てほしいなと思って。もちろん子どもにとっても貴重じゃないかな。私の子どもも、もうずいぶん大きくなっているんですが、妊娠中やお産のことを思い返すと原点に戻れるというか…。
光畑:これを手にして書き込む事で、お産に対するぼんやりとした不安とか疑問とかが浮き彫りになって心がストンと落ちるんじゃないかと思います。
書くことで整理され、アウトプットできるし、自分のことがわかりますよね。お母さんは特に自分に関わることを整理することが必要と感じます。いろいろなワークショップをしているのですが、アウトプットをしていくことは必要なんだなと感じています。
お産って、出産する母親にとっても自分のルーツを振り返る時間となるし、根っこになると思うんですよ。そう、出産を機に産まれ変われると思います。その時の記録をつけておく事で、何かに迷った時に根っこの部分を振り返られるのは、いいですね。
西井:実は、対談のお話をいただいた時、子育てにつまずいていました。
ノートを作るきっかけになった中3の長女がちょっと荒れていて、私も初めてのことでかなり悩みました。進路とか家族への思いとか、様々な思いがぶつかっていたんですね。それで娘と一対一で語り合ったのですが、
「初めてのお産では、自分に自信がなかったこと」
「産み育てることで、自分に素直になれたこと」
「育ててくれたのは、あなただった」ということを伝えたんです。
そうしたら、娘は
「うち、やるじゃん!」と、照れ笑いしながらも満足そうな顔をしていました。
もし、あの時ノートを作っていなかったら、そういう発見にいたらなかったと思うんです。
光畑:長い間活動してきた成果が回り回ってきた感じですね。
スタートは、母乳育児でしたが、何年もやっていると「まだやっているの?」
と周囲から尋ねられることがあるんですよ。実際に一緒に同じころ活動していた仲間たちも母乳育児が終わると卒業していって他の活動や仕事にかわっていってしまう。
西井:そうですね。私もよく言われます。
でも、お産や子育て支援をやり続けていると、若い世代とつながれるんです!次の子育てに参加していける感覚です。うどん屋でも子育て中の方に対応できるようお店を工夫して多くの子連れの方がいらっしゃいます。相談なども受けたり…
光畑:そうそう、そういうちょっと相談できる所の方が重要なんですよね。行政の子育て支援ではなく、身近なアドバイスをもらえる人間関係があればそれで解決されることも多い。問題に直面したお母さんがその仕組みづくりをはじめて、ネットワークができた頃には多くのお母さんが卒業してしまい、また後継の方が同じ悩みにつまずいて…の繰り返しも多いと思います。子育てにまつわるお母さんの悩みは一緒なのに、子どもの成長とともに解決しようという熱が冷めてしまう。なかなか知恵が伝承されず、問題の根っこは解決されないと思います。
継続は力なり、と、感じますね。
西井:最初、「うどん屋をやりながらこの活動を続けるのは無理じゃない?」 と言われました。
でも、自分は自分のやりたいことを持って、パートナーはパートナーのやりたいことを持っているのが幸せかなと思って…。
子育てしながらも、収入があれば「離婚してもやっていける」と思えるし、逆に夫婦関係にプラスになるはずです。
光畑:それぞれ仕事というか活動する場所を持っている、というのは夫婦の間にも公平感がありますよね。それに何があっても大丈夫と思えますよね。
でも、うどん屋さんを始めた時はビックリしましたよ。西井さんも(お産や母乳の支援は)卒業?ちょっと寂しく思いました。でも、この本で、また戻ってきてくれた!と。
お産や医療関係、とお母さんたちの間をつなぐ西井さんにはやはりこの活動を続けてほしいと思います。
間のサポート、行政でやるのは難しいなかなか難しいですしね。
西井:行政でやろうとすると、小回りがきかないんですね。
逆に、うどん屋は間のサポートの場として大切かな?と思うんです。
光畑:私も、この青山ショップを創ったのは、そんな思いからでした。
行政は、手当をしようとするのですが、必要なのはサポートで、不安を受け止める場だということがなかなか伝わらないですね…。
うどん屋さんの話を伺ってから、私もそのうち、カフェ(安心できる場)つくりたい! って思ったんです。お母さんがおいしいものを食べにきてゆっくりしていってサロンがあって…相談するまでにいかない、ちょっとした悩みを吐き出す場をつくりたい。そういう夢を持っています。
いろいろな背景の悩みがありますが、例えば、ちょっとした不安なことを共有することで楽になるんですよね。
それに寄り添ってくれるのが、このノートかな?と。
西井:最近では、子育て支援拠点事業として認められれば、助成がおりるそうですね。
行政も、何か起きる前に手を打つほうがよいと感じてきたようです。
光畑:予防が大切なんですね。
このノートからも 「予防が大切!」ということがよく伝わってきます。
マッサージと同じように、病気になる前のケアには保険が効かない、病気として扱われないと、保険の対象にならない現実はありますが…
西井:お産をきっかけに、病気にならないところで抑えるのが大事と気づく方が多いのではないかな。
今、通販でトコちゃんベルトを扱っているのですが、いろんな相談の電話がかかってきます。
妊娠中から骨盤のケアをすると、産後が違うということも実はあまり知られていなくて‥。
早め早めの誰かの一言で、大きく差が出てくるのを感じます。
光畑:お産やおっぱいの世界は子どもが大きくなると卒業していくのですが、卒業しないでほしいです!
西井:卒業しないうちに、孫が生まれて欲しいです。孫育てでまた活動を続けていきたいと思います。(笑)
娘にも同じようにノートを付けてもらえれば…なんて考えています。
光畑:うーん、私の娘はノートつけられるかな? 私、ノートって、まめにつけられないので…
西井:人によって違いますが、書いて身になる人もいますよね。書くことで整理されるんですね。
光畑さんも去年、子連れワークスタイルの本を出版されて、書くことで整理されたのではないですか?
光畑:確かに。私は、1冊本を書いたら2つぐらい先に進んだ感じがします。
整理するのは、インタビューされる時が多いかな?
西井:きっと、出版されて2つ先が見えてきたということですかね。ぜひこれからも先に先に進んでほしいです。
光畑:ありがとうございます。それにしても、このノート、西井さんの総決算ですね!
西井:ありがとうございます。
表紙の絵が完成してから、改めてイメージが広がりました。
そして、最後のメッセージが浮かんだのです。
” 出産は 人生の花がひらくとき
女性の からだがひらくとき
心の扉がひらくとき ”
せっかくの有り難い体験を、人生の花としてひらいてほしいという気持ちで作りました。私自身、不妊で悩んでいましたが、体質を変えることで妊娠にいたりました。ちょっとした事を知ることで、それから先の人生が変わることもあるということを語り続けていきたいです。
会場:自分が出産するときは、なかなかいいノートが見つかりませんでした。
子どもって、時々手帳が見たいと言うんです。
大切にされた証を知りたがるんですよね。これからお産する前の女性。未婚の女性にこのノートの存在を知ってほしいな、と感じました。
西井:みんなみんな大切にしてほしいです。
白いノート(生まれてくる子用)と記入済みのノート(自分の愛された歴史)を持って、すてきなパートナーと一緒に次世代の赤ちゃんを迎えてほしいです。
光畑:すごい時間とコストがかかっているノート。ほんとに、素敵な嫁入りアイテムになりそう(笑)